グラスゴーからクライド川にそって北西へ10キロ、アーカイン橋の北のたもとに古い蒸溜所があります。ローランドモルトの伝統製法3回蒸溜を今も守る唯一の名門オーヘントッシャン蒸溜所。その名前はゲール語のオーヒャドゥ・オッシン(野原の片隅)からきたもので、事実、蒸溜所は、キルパトリック丘陵の窪みにあります。その昔は、こんな目につきにくい窪地が密造の適地だったかも知れない、と思わせるような地形です。
ローランド地方は、スコットランドの首都エジンバラや商工業の都グラスゴーなど大都市があり、ウイスキーづくりの面でも先進技術がまっさきに及びました。グレーンウイスキーの蒸溜所もローランドに集中しています。ローランドモルトの特色が、飲みやすいライトなタイプとなっているのは都会人の洗練された味覚に合わせてのことだったかも知れません。なかでもオーヘントッシャン蒸溜所は、3回蒸溜を厳格に守り、口あたりの柔らかな素晴しいモルトをつくっているローランドきっての名門として定評があり、そのシングルモルトを愛する人々が年々、増えています。オーヘントッシャン蒸溜所は、仕込み水として蒸溜所の北のココノ湖の水を使用しています。面白いことに水源はハイランド側にあり、この点でもユニークなモルトウイスキーだといえるでしょう。「長年、この水を使っているので、夏場などで水が少なくなったときは、蒸溜を休むことにしている」と技師長のホトキンス。オーヘントッシャン蒸溜所の誠実なウイスキーづくりの姿勢がわかります。ピート香の軽い麦芽を厳選して、銅製の糖化槽で仕込み、醸造は昔ながらの木桶発酵槽で行っています。
ふつうのモルトウイスキーは、初溜、再溜と蒸溜を2回行って樽に詰めますが、ここオーヘントッシャン蒸溜所の蒸溜室には3つの釜が並んでいます。右端が初溜釜ウォッシュスチル、左端が通常の蒸溜所の再溜釜にあたるスピリッツスチルで、その間にインターミディエイトスチルと呼ばれる釜が立っています。モロミはまずウォッシュスチルでアルコール度数18%ほどへと蒸溜され、真ん中のインターミディエイトスチルで54%に高められ、そして最後のスピリッツスチルでアルコール度数81%ほどのモルトウイスキーが取り出されます。これを64〜58%ほどまで割水して樽につめ、貯蔵するのです。インターミディエイトスチルの蒸溜液のうち終りの部分はテイルと呼ばれてカットされ、次の蒸溜の際にウォッシュ釜に入ります。また、スピリットスチルからの蒸溜液のうち、真ん中の良い部分だけがウイスキーになり、残りの余溜液はインターミディエイト釜での次の蒸溜に回されます。こうしてオーヘントッシャンモルトは、独特の3回蒸溜方式によって、きわめて爽やかな香りと軽やかなボディーとをもつローランドモルトとして生まれ、熟成への旅に入ります。
3回蒸溜のモルトは、何故か熟成が早いことで知られています。オーヘントッシャン蒸溜所のモルトなら、5年もすれば十分まろやかに熟成し、シングルモルトとして味わえるほどです。さらに寝かせれば、その香りは十二分に深まり、素晴しい開花をみせるのです。3回蒸溜という手間のかかる製法は高価につきますが、それだけ良い結果をもたらしてくれます。そのマイルドな香味は、シングルモルトウイスキーのコニサー(鑑定家)から入門者まで、また、男性のみならず女性にも受け入れられて、高く評価され、オーヘントッシャンはこのところ人気を急速に高めています。
創業年:1800年頃 | 仕込み水:カトリン湖 |
ポットスチル:ランタンヘッド型 | 初留釜x1基 後留釜x1基 再留釜x1基 |
スコッチウイスキーでは珍しい3回蒸留を行なっている。 | |
ブレンド銘柄:ロブロイ、アイラレジェンド、バランタイン、ロイヤルカリス |